「手話で通訳お願いねw」食堂パートを罠にかけた女上司。商談が手話で始まったが、パートの女性が手を動かした瞬間、その場にいた全員が凍りついた…
「明日の商談、手話で通訳お願いね。……うまくいかなかったら、責任はパートのあなた。明日で、終わりにしてあげる」
昼休みの社員食堂で、本社から来た部長が、わざと周りに聞かせるように言った一言でした。
食堂のあちこちで、笑い声が上がりました。
ご覧いただきありがとうございます✨
柚木ちとせ、24歳。
和菓子屋さんに納める餡を作る会社の、社員食堂の調理補助のパートです。この春で三年になりました。
朝は大鍋に火を入れ、二百人分の皿を洗い、夕方は翌日の仕込みをしています。
父は、私が六つのときに事故で亡くなりました。
十歳の冬、母は高い熱のあと、音を失いました。
母は話せます。けれど、自分の声が聞こえないのが怖くて、外では話さなくなりました。
私は母と二人で手話の講習会に通い、私の手が、母の耳になり、母の声になりました。
食堂には、昼休みが終わる頃に一人で食べに来る人がいました。
倉庫の瀬川さん。生まれつき、耳が聞こえません。
私は画用紙に「手話で、いただきます」の絵を描いて、食堂の壁に貼りました。
春、本社から新しい部長が来ました。壁の絵を見るなり、
「……気持ち悪い。剥がして」
母とのビデオ通話で手を動かしていると、後ろで笑われました。
「食堂のパートが、スマホに向かって、手をひらひら。笑っちゃう」
ある日、取引先への出荷が足りないと、部長は瀬川さんを食堂の真ん中で怒鳴りつけました。
私は手話で瀬川さんの話を聞き、伝票を書き換えたのは営業の方だと伝えました。
「パートの分際で、出荷の話?」
その場で、夕方の仕事を外されました。給料は半分の十万円。団地の家賃を払うと、母と二人で、四万八千円しか残りません。
そして商談の前日。部長は、和菓子の老舗の会長との通訳を、私に押し付けました。
「手をひらひらさせてれば、それっぽく見えるから。聞こえないおじいさんに、分かるわけないでしょ」
翌日の昼、社員食堂に現れた老紳士は、口を開かず、両手を胸の前に上げました。
部長は、私の耳元で笑いました。「ほら、出番」
私が手を動かした瞬間、なぜ、その場の全員が凍りついたのか。
老紳士の古い鞄の中には、何が入っていたのか。
エプロンのポケットに畳んだままの一枚の画用紙は、最後に、誰の手に渡るのか。
どうか最後までお付き合いください。
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ナレーション:わさび
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