今も解明できない古代の技術
「現代の技術でも再現できない」と言われる古代の技術は、たくさんあります。2000年崩れない海のコンクリート、錆びない鉄の柱、光で色の変わる杯、色あせない青、錆びない剣。ところが一つずつ調べていくと、その多くは、ここ30年あまりの研究ですでに答えが出ていました。
答えを出したのは、古い本ではありませんでした。ローマのコンクリートは、港の遺構から抜いた試料と、噴火の日に止まったポンペイの工事現場の材料の山が答えました。デリーの鉄柱は錆そのものが、リュクルゴスの杯はガラスのかけらの中の小さな粒が、マヤの青は博物館の棚で眠っていた鉢が、答えを持っていました。イースター島の「像は歩いた」という言い伝えは、像の形と実験で裏づけられました。
では、今も解けていないものは何か。東ローマの「海の火」は中身が一滴も残っていません。アンティキティラ島の歯車の機械は部品の3分の2が海に消えました。ストーンヘンジの祭壇石はスコットランドから運ばれたと分かりましたが、運んだ道の跡がありません。ピラミッドの石を上の段へ上げた坂も残っていません。青森の三内丸山の6本柱は、根元だけが残りました。分からないところは、どれも物が残っていないところでした。
【目次】
0:00 消えない海の火と、先祖の倉
1:51 解けた謎(ローマのコンクリート・デリーの鉄柱・リュクルゴスの杯)
7:18 解けた謎(マヤブルー・越王勾践剣・歩いたモアイ)
10:20 答えたのは物だった
12:18 まだ解けない謎(アンティキティラ・海の火・祭壇石・ピラミッド)
18:59 三内丸山の6本柱と、まだの棚の共通点
【参考資料】
・Jackson, M. D. ほか (2017) American Mineralogist 102(ローマの海のコンクリートの鉱物)/ ユタ大学 発表(2017)
・Seymour, L. M. ほか (2023) Science Advances 9(熱いまま混ぜる石灰)/ MIT News(2023)
・Vaserman, E. ほか (2025) Nature Communications 16(ポンペイの工事現場)/ MIT 発表(2025年12月)
・ウィトルウィウス『建築十書』(Morgan 英訳 1914)第2書第5〜6章・第5書第12章 / プリニウス『博物誌』
・Balasubramaniam, R. (2000) Corrosion Science 42 / (2001) / (2002) Current Science 82(デリーの鉄柱)
・Barber, D. J. & Freestone, I. C. (1990) Archaeometry 32 / Freestone, I. ほか (2007) Gold Bulletin 40(リュクルゴスの杯)
・Gettens, R. J. (1962) American Antiquity 27 / Arnold, D. E. ほか (2008) Antiquity 82 / Yamamoto, Y. & Koga, N. (2019) Molecules 24(マヤブルー)
・Martinón-Torres, M. ほか (2019) Scientific Reports 9(兵馬俑の武器のクロム)/ 中国新聞社(2022)・『国家宝蔵』(2018)(越王勾践剣)
・Lipo, C. P. & Hunt, T. L. (2025) Journal of Archaeological Science 183(歩くモアイ)
・Fall, A. ほか (2014) Physical Review Letters 112(湿った砂とそり)/ Science News(2016)(1896年のミイラのX線写真)
・Harris, W. V. (1989) Ancient Literacy / コーニング・ガラス美術館(ガラスの起こり)
・Freeth, T. ほか (2006) Nature 444 / Freeth, T. ほか (2021) Scientific Reports 11 / Antikythera Mechanism Research Project(アンティキティラ島の機械)
・テオファネス『年代記』(ビザンツ人物誌 Kallinikos 1)/ コンスタンティノス7世『帝国の統治について』第13章(Moravcsik & Jenkins 版)/ アンナ・コムネナ『アレクシアス』第11巻・第13巻 / Haldon, J. (2006)(ギリシャの火)
・Clarke, A. J. I. ほか (2024) Nature 632 / Clarke ほか (2026) Journal of Quaternary Science 41 / カーティン大学 発表(2026)/ イングリッシュ・ヘリテージ(ストーンヘンジの祭壇石)
・リバプール大学 発表(2018)(ハトヌブの石切り場の坂)/ Ghoneim, E. ほか (2024) Communications Earth & Environment 5(アフラマート支流)/ Tallet, P. (2017)(メレルの日誌)
・三内丸山遺跡センター(大型掘立柱建物の説明と復元)/ 文化庁 広報誌ぶんかる(2021)
※ 「解けた」は、しくみに説明がついたという意味です。どれもすべてが分かったわけではありません。ローマのコンクリートは、熱いまま混ぜる方法がどれだけ広く使われたかが議論中です。リュクルゴスの杯は、作り手が狙って作ったかが分かっていません。マヤブルーの古代の手順には複数の説があります。モアイの「歩かせて運んだ」は有力な説で、すべての像がそうだったとは分かっていません。
※ ローマのコンクリートは、押す力に耐える強さでは今のコンクリートより低く、優れているのは海の中で長くもつ点です。ウィトルウィウスの記述と現場のやり方の食い違いは、読み違いの可能性も研究者が挙げています。
※ デリーの鉄柱は錆びていないわけではありません。重さ(約6トン)は推定値です。越王勾践剣のクロムめっき説は、測定データの出典が見つからないという意味で、完全に否定されたとまでは言えません。
※ アンティキティラ島の機械の前面の復元(2021年)は、著者自身が元の機械の複製とは言えないと書いています。作られた年代には幅があります。
※ ギリシャの火が最初に使われた年(670年代のはじめ)と、カリニコスが発明したのか改良したのかには、研究者のあいだで議論があります。材料の中心が石油だったという見方が広く支持されていますが、配合は分かっていません。
※ 祭壇石の距離は論文により「少なくとも750km」「約700km」と幅があり、どちらも産地からの直線の概数です。海で運んだか陸で運んだかは分かっていません。
※ ピラミッドの坂の説(直線・巻きつく坂・内部の坂など)は、どれも決め手が見つかっていません。
※ 三内丸山の復元(高さ14.7m・屋根なし)は、柱穴の底の土にかかった重さなどからの推定の一つです。柱穴は6つで、木の根元が残っていたのは4つです。
※ 宇宙人や超古代文明の説は、確かめる手がかりがないため扱っていません。登場する人物は似顔絵ではありません。映像はすべて解説のための再現・想像図です。
【使用音源】
ナレーション: ElevenLabs(合成音声)
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